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2013.08.31
甘酒の微生物学(その3)

承前

Q:「麹甘酒」と「酒粕甘酒」で、栄養はどう違うのか?

 それぞれの成分表を探したら、文科省の五訂増補 日本食品標準成分表に甘酒(し好飲料類(pdf)のNo.16050)と酒粕(調味料及び香辛料類(pdf)のNo. 17053)のデータが載っていました。この甘酒についての説明書きにも、
「『甘酒』は、通常、米麹(こうじ)、米飯、水とを混和し、50~60℃で、12~24時間保温、糖化させて造られる日本古来の飲料である。なお、甘酒はアルコール分をほとんど含まない。成分値は、分析値に基づき決定した。」
とあります。これは、水分含量が100 gあたり79.7 gとなっていること、また、普通にコーヒーやコーラなどと比較されていることから、そのまま飲めるストレートタイプと思われます。

130830 甘酒の微生物学の図.jpg 酒粕のほうはあくまで「酒粕」として載っているので、酒粕甘酒のデータはありません。仕方ないので酒粕を水分含量79.7%になるように水で薄めたとして計算したもの(図中「酒粕×0.415」とあるもの)、と比較してみることにします。すると、
○麹甘酒はたんぱく質や脂質が少ない(ブドウ糖液に近い)(表1)
○麹甘酒の方がナトリウム、リンなどの無機イオンに富む(表2)
○どちらもビタミンを含むが、量的には(酵母の入っている)酒粕の入っている甘酒の方が多そう(表3)
ということが分かります。

 酒粕甘酒はさらに砂糖や塩を加えるので、炭水化物量やナトリウム含量は増えるでしょう。製品そのものを分析したわけではありませんし、それぞれの製品によってもばらつきがあると思いますが、一般的な傾向としてはこんなところだろうと思います。
130830 甘酒の微生物学の図2.jpg130830 甘酒の微生物学の図3.jpg

Q:甘酒は「飲む点滴」と呼ばれるが、どう身体にいいのか?

スライド3.JPG 上記の表に、代表的な点滴の輸液とされるもの(ソリタT3号)や人の体液の組成に近いことを謳った清涼飲料水(ポカリスエット)の組成も載せてみました。そこから考えると、量の多い少ないはありますが、麹甘酒も糖や無機イオンを含む点でそれらと成分が共通することが分かります。さらに、表中では「炭水化物」となっている糖の組成を調べた論文(2)には、麹甘酒の糖(炭水化物)は約80%がブドウ糖で、残りが種々のオリゴ糖(この場合はブドウ糖の分子がいくつかつながったもの)であることが報告されています(右図)。

 ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源であり、輸液にも(砂糖ではなくて)ブドウ糖が入っています。ここまでブドウ糖ばかり入っている飲料というのは他にない(ブドウジュースは同じくらいの量の果糖(スクロース)を含む(pdf))でしょうから、無機イオンを含むこととあわせて、「飲む点滴」と呼ばれるようになったのでしょう。

 shinodaは栄養学は専門ではないので、麹甘酒に含まれるビタミンの機能について詳しく議論することはしませんが、麹甘酒には原料の米にない、麹菌の身体(細胞)に含まれる栄養素が入っています。試みに上記の酒粕と同じように米(精白米)の栄養成分表(穀類(pdf)のNo. 01083)から計算すると、麹甘酒は原料分の米に比べてビタミンB2を6.3倍、葉酸を2.8倍含むことになります。おそらくこれらが麹菌の作用によるものでしょう。

 また、いちいちこのように測定されるのは、麹菌の身体(細胞)を構成している成分のほんの一部なので、他にも種々のビタミンや酵素、微量成分が摂れることが期待できます。ブドウ糖とミネラル、ビタミン、その他の成分が手軽に摂れるという意味では、「麹甘酒は天然の栄養ドリンク」という表現も間違いではないと思います。

 いま微生物学の世界で流行っているのは(以前にも書いていますが)ミクロビオーム。ヒトの身体を構成している細胞の数よりもはるかに多い数の微生物を、我々は自分の身体の内外に棲まわせていることが分かっており、これらの微生物が健全であることが、ヒトの健康を維持する上でもかなり重要だ、ということが科学的に明らかになりつつあります。麹甘酒のような発酵醸造物には微生物に由来する様々な成分が含まれているので、それらが体内の微生物の働きを活性化させることでヒトの健康にも貢献している、ということが、いずれ科学的に証明されていくだろうと思います。


【参照文献】
2)甘酒の成分について(第1報)-糖の定量 四方日出男, 築山良一, 石上有造, 西山輝, 森口繁弘 醤油研究所雑誌 Vol. 3 (1977) 105-110

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