国際的な環境問題や資源問題の研究

内藤 登世一 教授
内藤 登世一教授
オレゴン州立大学Ph.D. 専門は環境・資源経済学。担当科目は「国際社会と環境」「国際社会と資源」「エコロジー入門」など。著書に『メコン地域の経済│観光・環境・教育│』大学出版センター、論文に "Is Shrimp Farming in Thailand Ecologically Sustainable?" IIFET や"Analysis of a Highly Migratory Fish Stocks Fishery: A Game Theoretic Approach" MRE など多数。
タイのマングローブの植林についての現地調査 私の専門は環境・資源経済学です。この学問分野では、経済学を応用して環境問題や資源問題の原因を解明し、その解決のための経済政策(環境政策・資源政策)や制度を設計しています。また、実際のデータと計量経済学の分析手法を用いて、解明された結果が正しいかどうかの実証研究も行っています。
 環境問題や資源問題は、私たちが毎日の経済活動を行っている経済システムで起こった問題です。したがって、経済学を使用して経済システムを分析することによって、環境問題や資源問題の原因が解明されます。さらに原因が分かれば、それを解決するための政策や制度を経済システムの中に設計することができます。
 環境問題に関して、私がこれまでに取り組んできた研究の一つは、経済発展と環境破壊の関係についての分析です。経済が発展すると社会は豊かになりますが、その見返りとして環境が破壊されます。しかし、実際には多くの先進国が経験してきたように、環境破壊は経済発展の初期段階では徐々に悪化していくものの、さらに経済発展が進んで社会が豊かになれば、今度は逆に回復していきます。この仮説は「環境クズネッツ曲線仮説」と呼ばれています。
 ただ先進国にはこの仮説が当てはまりましたが、発展途上国にもそれが当てはまるのでしょうか。この問いに答えるべく、タイのマングローブ破壊のケースについて「環境クズネッツ曲線仮説」の検証を行いました。タイのマングローブは、1970~80年代にかけて、エビ養殖産業の発展に伴って大量に伐採され、国内の約半分が破壊されてしまいました。しかしその後2004年には、破壊されたマングローブの約半分が回復しています。
 データを用いた実証分析の結果、環境破壊が経済発展に伴って回復してきたことが強く示され、タイのマングローブ破壊でもこの仮説が成立することが実証されました。さらにこの仮説を導く要因の分析からは、マングローブ破壊は人口成長率の上昇によって加速し、産業の構造変化によって回復することが明らかになりました。
客員研究員として米国ミネソタ大学で1年間の研究生活  他方で資源問題に関して私が取り組んできた研究には、ベーリング公海のスケトーダラ資源の枯渇の問題があります。公海は誰のものでもないので、そこに存在する資源はすべて共有資源(コモンズ)となります。したがって、1980年代にベーリング公海で起こったように、漁業は早い者勝ちとして競争的に行われます。その結果、1992年にはこの公海のスケトーダラ資源は枯渇してしまい、翌年から始まったモラトリアム(操業の一時停止)は現在も続いています。
 共有資源の枯渇の問題は、「コモンズの悲劇」と呼ばれていますが、その原因や帰結はゲーム理論を応用することで説明できます。公海では、全漁業者が協力すれば最も利益を得られるにもかかわらず、各漁業者にとっては全力で操業することがベストな戦略となり、資源の枯渇という最悪の結果を招くのです。私の研究では、実際のデータを使用して統計的分析を行い、こうした説明が正しいことを実証しています。
卒業式でゼミ生と一緒に記念撮影  「コモンズの悲劇」を繰り返さないためには、悲劇の結末を予め認識して、国際的な共同管理制度を設立する必要があります。ゲーム理論の応用によって説明されるように、全漁業者が協力して共有資源を管理すれば、全体の利益を最大にできるのです。現在では遅ればせながらも「ベーリング公海漁業条約年次会議」が毎年開催され、関係各国が共同でスケトーダラ資源を管理しています。
 こうした環境問題や資源問題の研究を背景に、「国際社会と環境」や「国際社会と資源」といった授業を行っています。これらの授業では、いくつかの国際的な環境問題や資源問題を取り上げて、それらの現状や原因を明らかにし、さらにその問題の解決のための国際的な政策や制度について議論しています。