イメージの表現と文化について研究する

山 愛美 教授
山 愛美教授
専門は心理臨床学、深層心理学。担当科目は「人格心理学」「深層心理学」など。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了、博士(教育学)、臨床心理士。著書に『言葉の深みへ』、論文に『「造形の知」と箱庭』『「造形の知」と心理療法』など。
英国Essex大学にて表現と文化についてオープンセミナーを行う(2009年) 心理臨床学における研究とは、心理臨床の実践から生まれるものであり、かつそれを支えるべきものである、と私は考えています。今日心理臨床の実践の場は、医療や教育機関、さまざまな相談施設、民間、個人の心理面接の場など多岐に渡っていますが、いずれの場合も共通しているのは、人間と人間の関わりが基盤にあるということです。
 私の専門は、特に心の中の、本人も意識していない無意識の領域までも視野に入れながら人間の心について探ろうとする深層心理学です。それゆえ研究は、おのずと人間の心の深い理解を目指すようなものとなり、興味や関心は哲学や民俗学、精神医学、宗教学、文学、芸術、歴史など様々な学問領域へと拡がっています。しかし、考えてみれば、今日このように幾つもの分野に分類されている学問も、古代にまでその源を辿れば、もともとはすべての領域が渾然一体で、それは「生きる」ことそのものに直結した「人間学」とでもいうようなものでした。今日、盛んに、異なる学問分野が協働して行われる学際的研究が脚光を浴びているのも、こうした本来の姿に立ち戻ることが求められていることによるのかもしれません。しかし、このような研究の場合、既存の研究方法にのっとるということが出来ないため、方法論を模索するところから始めなくてはなりません。もちろんこれはなかなか難しいのですが、私にとっては、どのようにして自分の研究を人に伝えるかを考える過程こそが楽しいとも言えます。
中国蘇州大学にて心理療法における表現についてのワークショップ(2007年)  さて、現在の私の研究のキーワードを二つ挙げるとすれば、「表現」と「文化」です。心理面接は、主に来談者(クライエントと呼びます)と心理臨床家との間の言葉でのやり取りによって成り立っています。何か悩みを持って相談に来られるクライエントの話を、その方の「物語(ものがたり)」であると捉え、自分の「物語」を表現すること(語ること)が心理学的にはどのような意味を持つのかについて、心理臨床の実践を通して研究して来ました。そして、そもそも、感じていること、考えていることを言葉にするとはどういうことなのか、言葉にはならないもの(イメージ)を言葉にする過程では何が起こっているのか、そしてその心理学的意味について考えてきました。
ケルトの十字架(スコットランド) また、クライエントが話をするだけではなく、絵を描いたり、造形作品を作ったりしながら心理面接が展開していくことがあります。そこで、その表現することの心理学的意味を、過程を辿りながら考察してきました。さらに、心理臨床での体験だけではなく、画家や造形作家など、広く造形活動に携わる人の制作過程を辿ることを通しても研究しています。
 さて、もう一つのキーワード「文化」についてです。最近は、表現の仕方の文化差についても興味を持っています。例えば、以心伝心という言葉もあるように、あえて言葉にしなくても気持ちや考えていることが伝わり得るとする日本の文化と、言葉にすることが重視される西洋文化との比較など、表現様式を比較することから文化の特徴について研究しつつあります。さらに、心理臨床における体験と結び付けながら、神話、昔話などを深層心理学的に読み解くことを通して、日本人の精神性や日本文化の特徴について探ることを試みています。その際にはもちろん他の文化と比較するという視点が必要となるため、ギリシア神話、ケルト神話、東南アジアの神話など世界中の神話にも関心を持っています。
そして、私はこのような研究を日本国内だけではなく、海外にも発信していくことの重要性を感じています。こうした地道な積み重ねが、今日盛んに唱えられている、国際理解、世界のグローバル化に貢献するのではないかと思っています。